強いこだわりが生きづらさに
前回はASD「自閉症スペクトラム」の概要について説明しました。今回は、その症状の事例を2回に分けて紹介します。
~高校2年生F君~
特別支援学校に通うF君は、普段は穏やかな性格で、丁寧な口調が印象的です。コミュニケーションもとることができ、語彙力も高い。さらに興味のあることに対しては知識が豊富でした。そんな彼は知的な遅れを伴わないため「高機能自閉症」に該当します。
彼は、さまざまな場面で強いこだわりをもち、思いどおりにいかないと力で訴えます。たとえば、絵を描いたり工作をしたりすることがすきで、細部までこだります。自分が納得するまでやめられないため、施設の利用時間が過ぎても中断できません。また、自宅でも一睡もせずものづくりに熱中することもありました。
入所当初はたのしんで施設に通っていましたが、次第にそのこだわりが、友だちや職員とトラブルを招くようになります。自閉症の特徴の1つは「自分だけのルール」をもち、それを譲らないこと。自由時間に絵を描き始めると、集団行動が始まっても続けます。皆が別の活動をしているなかでも、自分の絵が完成すると、職員に披露しようとします。そこで職員が「いまは活動時間だから、休憩時間に見るね」と伝えても、いま見てほしいという衝動が抑えられず、力尽くで見せようとします。こうして彼は集団行動に馴染めず、納得できないことに対して、手が出てしまう傾向がありました。
スモールステップで達成感を味わう
自閉症の子どもは思いどおりにいかないとき、力で訴えたり、癇癪(かんしゃく)を起こしたりするケースが多くあります。わたしたち職員や保護者は、その場を収めようと、彼らのいいなりになると「暴力をふるえば聞いてもらえる」と誤って学習してしまいます。決して強く叱ったりするのではなく、少しでもよい行動がとれたときは褒めたり、自信をつけてあげたりすることが大切です。
たとえば、片付けが苦手な子どもに、はじめからすべて片付けさせることは困難です。最初は大人がメインで取り組み、最後の1つだけ片付けるところからスタート。それを箱に入れられただけでも褒めてあげましょう。そして「できたね。次は2つ片付けてみよう」とできることを少しずつ増やしていきます。小さな課題をクリアし、その都度達成感を味わえるようスモールステップを築いていくとよいです。
本人もどうしようもできない辛さ
暴力を奮って辛いのは、彼も同じです。普段はおしゃべりですが、一言も発しなくなり、苦しそうに自分の膝を強く叩くのです。次第に職員の膝を叩き始め「うーうー」と、なにかを伝えたがっているのがわかります。絵や字を書くことがすきなため、ホワイトボードで気持ちを表現してもらおうとしても、このときはペンをもつことすらできません。
こうして彼は思いどおりにいかないこと、自分で気持ちをコントロールできないこと、上手に気持ちを伝えられないこと、理解してもらえないことが耐えられなくなり、高校1年生の途中から不登校になってしまいました。おそらく彼も皆と気持ちを共有したかったのだと思います。
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